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「DX推進の担当をしていますが、業務時間の大半が社内の調整に消えていて、設計や実行にほとんど手がつきません」。検索で、こういう形の言葉を打ち込んでいる方がいます。これは普通のことなのか、それとも進め方を間違えているのか。先に答えを書きます。調整に時間が使われること自体は、推進役の仕事そのものです。異常ではありません。ただし、何か月たっても前に進んだ感じがしないのなら、疑うべきは仕事の量ではなく順番です。決めてから説得する形になっていると、同じ説明を何度も繰り返すことになり、時間だけが溶けます。私自身、前職でそのやり方をして、2度持っていって2度とも聞いてもらえませんでした。この記事では、なぜ調整が仕事なのか、順番を変える3つの手、そして時間を使わないほうをどう決めるかを書きます。
目次
01調整に時間が溶けるのは、あなたが推進役だからです
DX推進役の仕事は、何をどの順番で変えるかを決めて、決まったことが実行されるまで社内を動かすことです。ツールを選ぶことでも、設定することでもありません。だとすると、人に話を通している時間は、本来の仕事の前にある準備ではなく、仕事の中身そのものです。
コンサルティングというと、分析して提案して、というイメージがあります。でも、実際にコンサルタントの仕事を間近で見ていて、もうひとつ大事な仕事があると気づきました。調整役です。関係する人のあいだに立って、話を運ぶ。ここが抜けると、どれだけ良い分析をしても、実行まで運ばれません。
友人から聞いた話があります。その友人が、ある大手コンサルティング会社の方と話す機会があって、いま人をかなり採用しているらしい、と聞いたそうです。理由を尋ねたら「調整役には絶対に人が必要だから」という答えだった。分析や情報収集はAIで補えるようになってきた。でも、社内外の関係者と感情や温度感をすり合わせながら動く調整役は、今のAIではまだ難しい。だから、そこに人を当てるために採用を増やしているんだそうです。又聞きの話ではありますが、人が必要な場所が分析のほうから調整のほうへ動いている、という話だと受け取りました。
会社の中で起きていることも、同じ形です。会社が「これを使いなさい」と言い、現場は使わない。あいだに営業企画や経営企画の人が入って、こういう課題があるからこう使うんです、と噛み砕いて初めて、ようやく現場が動き出す。大手企業でもよくある構図だと思います。あなたが調整と呼んでいる時間も、この「噛み砕く」時間に近いのではないでしょうか。
「政治的な調整」と呼びたくなる気持ちも分かります。ただ、あいだに入る仕事を続けていて思うのは、誰も潰したくないし、みんな良くしたいと思っている、ということです。噛み合わないのは、人によって距離感がバラバラだからです。同じ言葉を聞いても、受け取る位置が違う。この前提に立つと、敵を探す会議が、未来を決める会議に変わります。
ですから、調整に時間が使われていること自体を、進め方の失敗だと考える必要はありません。設計書を書いた時間だけを仕事として数えると、自分の一日がほとんど無駄だったように見えてしまいます。そうではありません。
02それでも「進んでいない」と感じるときに起きていること
ここからが、もう一つの問いへの答えです。調整が仕事だとしても、前に進んだ手応えがまったくないのなら、何かがずれています。
私は前職で、大手メーカーの営業を9年やったあと、本社の営業企画に3年いました。この異動で、仕事の形がガラッと変わりました。「この大きな目標に向かって活動してください」とだけ言われて、そこから先が何もない。どう動くか、どんなロードマップで進むか、全部自分で決めなければならない。営業のときは何となくあったレールが、本社には一切ありませんでした。出張のアポも、企画の立ち上げもゼロから自分で。社内すら知らない人だらけで、内線電話をかけて「ウエツと申します、初めまして」から始める。社内営業みたいなことを、ずっとやっていました。
当時の私は、根回しという言葉が好きではありませんでした。外で営業をしていた頃は「すべて自分次第だ」と考えていて、根回しなんてする必要はないと思っていたんです。響きも好きになれなくて、「根回しなんて」と避けていました。
だから、企画をまとめて開発部門に持っていきました。ところが、誰も聞いてくれないんです。「あいつ何者だ?」「どこから来たんだ?」という感じでした。少し前まで外で営業をしていた人間ですから、本社では誰も私の意見なんて聞いていません。
そのとき私が最初に出した答えは、間違っていました。自分のアピールが足りないんだと思い、もっと実績を残さなきゃと駆けずり回ったんです。企画の中身を磨いて、実績で押す。真面目な方向ではありますが、止まっている場所が違いました。
変わったきっかけは、先輩の一言でした。「この人がこういうことを知っているから、ちょっと聞いてきな」。周りから見たらたらい回しに見えるかもしれません。でも言われたとおり社内を駆け回って、この人にこういう話をして、あの人にこういう話をして、を繰り返しているうちに、だんだん信頼を勝ち取っていきました。最初は話も聞いてくれなかった人が、直接行って「こういう思いがあって、こういうことをやりたいんです」と説明すると、「ああ、そういうことか。じゃあこの人のところに聞きに行ったらいいよ」とアドバイスをくれるようになる。単純接触効果というものだと思います。
そうやって集めた情報を元に企画を練り直して、もう一度持っていきました。それでも、やはり開発の人からは聞き入れてもらえませんでした。
ここで2人目の先輩が教えてくれたのが、次の章に書く一言です。この時点で私は、中身も磨いたし、社内の知り合いも増やした。それでも通らなかった。残っていたのは、完成した企画を持っていって、その場で納得させようとしていたこと。中身と信頼をそろえたうえで、最後に効いたのが順番でした。
一日が調整で埋まっているのに前に進まないとき、同じ形になっていないでしょうか。決めたものを持って説明に回る。反対される。持ち帰って直す。また説明に回る。1回の会議が次の説明を生むので、調整の総量はいつまでも減りません。そして設計や実行の時間は、この往復の外側にあります。往復が続くかぎり、そこには手が届きません。
部門をまたぐ協調について、参考になる数字があります。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX動向2025」の調査に、DXで効率化の成果が出ている企業だけを取り出し、売上増や利益増といった成長の成果まで出たかどうかで分けた比較があります。経営者・IT部門・業務部門の協調に取り組んでいる割合は、成長の成果まで出た群が76.0%、出なかった群が52.3%でした。業務プロセスの全社最適化への取組では59.0%と34.7%です。同じ設問で、米国企業(成長の成果あり)の協調は92.3%でした。
断っておくと、これは取組の割合を並べた比較であって、協調したから成長した、という因果を示したものではありません。分母も「効率化の成果が出ている企業」に限られていて、日本企業全体の話ではありません。それでも、効率化のところまでは同じように成果が出ている会社どうしで、部門をまたぐ協調の有無に差が出ている、とは言えます。同じ別表1で、DX推進の専門部署を置いている割合を見ると72.7%と66.5%で、差はわずかです。大きく開いたのは、部門をまたいで協調する取組のほうでした。社内に話を通して回ることは、少なくとも成果の出ている側がやっている仕事に入っています。(出典:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)国際・産業調査部 河野浩二「DX動向2025 – 成長のためのDXに求められる取組」調査分析ディスカッション・ペーパー 2025-01、別表1「DXの取組内容別の取組割合(日米独企業)」。元調査は「国内外におけるDX推進状況等の分析」、実施期間は2025年2月10日〜3月28日、回収数は日本企業1,535社・米国企業509社・ドイツ企業537社、実査は株式会社NTTデータ経営研究所。別表1の企業数は、日本の成長あり群271件、成長なし群371件、米国の成長あり群314件。https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/discussion-paper/dx2025_activities_for_driving_growth.html)
03順番を変える3つの手
やることの中身は同じでも、置く順番を変えると往復が減ります。前職で教わったことと、今の仕事で使っている手を3つ書きます。どれも特別なことではありません。
会議の前に、味方側を固める
「じゃあ次どうしたものか」と考えていたら、またある先輩が教えてくれました。「先に営業側で意見をまとめておいた方がいいよ」と。本丸の開発部門に持っていく前に、自分の側、つまり営業側の意見をそろえておけ、という話です。
やることは、事前に聞いておくだけです。「こういうふうに進めたいので、こういうのが来た時に助けてもらえますか」「こういうふうなデータを持てますか」。この2つを先に聞いておくと、当日までにそのデータを準備しておいてくれたり、会議の場で「こういったケースの時はこうなるんじゃないですか」と助けてくれたりするんですよね。全部の質問に自分ひとりで答えなくてよくなります。
これを「根回し」と呼ぶと、裏で話をつける後ろ暗い作業のように聞こえます。でも、そういうことではなくて、やっているのは先に意見の同調を集めておくこと、方向性を統一しておくことです。だから、言葉を変えたほうがいいと思うんですよ。根回しではなく、「味方を増やす」「方向性合わせ」「ベクトル合わせ」。
正直に言うと、これは面倒です。話すのは結構大変だと思います。特に、先輩方の意見を聞くとか、教えてもらうというのは、ハードルが高かったり、緊張したりする。それでも、その後のことがすごくスムーズになります。目的を達成するためなら、そんなものはどんどんやってしまったほうがいいです。
共犯者をつくる
今の仕事でよく言っているのは、共犯者を作りましょう、ということです。言い方は悪いですけどね。
一緒にやってくれる仲間、協力者をプロジェクトに巻き込む。すると、その人が「俺が導入したんだ」と言い出すようになります。私はそれでいいと思っています。むしろ、そうなったら勝ちです。
社長や私の実績になるより、巻き込まれた人が「自分が導入を後押しした」と思ってくれるほうが、社内でははるかに効きます。その人が自分の言葉で必要性を語ってくれるからです。あなたが何度も説明して回るより、現場の一人が自分の言葉で一度言うほうが通ることがあります。そして一度そうやって成功事例ができると、次のツールのときにも同じ作用が起きます。
巻き込むために、私は必ずチームのリーダーにヒアリングをさせてもらいます。どういうチームなのか。どこを目指しているのか。そのうえで、今どんな課題があって、みんなが何に必要性を感じていて、どのツールが合うのか。この時間を必ず取ります。ここで出てきた言葉が、そのまま導入する理由になります。
時間がないときほど、聞くのは後回しにして先に決めてしまおう、と考えたくなります。順番としては逆です。聞かずに決めると、決めたあとの説明が増えます。
30点で形にしてから聞く
3つ目は、合意を取ってから作る、をやめる手です。
たとえ30点でも50点でもいいから、一回何かをやってみる。そこから会話が動き出します。逆に、形にしないと、相手の中でも漠然としたままなんです。だから「さらにこうしたい」すら出てこない。話が前に進みません。
私がよくやるのは、「社長の考えって、こうであってますか」「一応こんなの作ってみたんですけど、色、ちょっと違いますか」と聞くことです。形にして見せると、みんな「そうそう、こんな感じ」と反応してくれます。そこから「さらにこうしたい」が出てきます。言葉だけで仕様を詰める会議を重ねるより、30点のものを一度見せるほうが早いことが多いです。
ひとつ注意があります。30点で見せるのは、会話を始めるためであって、渡して終わりにするためではありません。私にも失敗があります。急に話が来て、関係値がまだ浅いお客様から「これ、お願いします」と頼まれたとき、深く聞き込む前に、言われたことをそのまま形にして、アウトプットだけをポンと渡してしまったことがありました。その場では、悪くない反応でした。「ありがとうございます」と言ってもらえた。でも、そこから先につながらなかったんです。次の相談が来ない。継続の話にもならない。あとから考えると当たり前で、相手が本当にやりたかったことの、たぶん半分も汲み取れていませんでした。見せたあとに何を聞くかまでが、この手の中身です。
04時間を使わないほうを決める
3つの手を使っても、全員が味方になることはありません。ここで「反対している人を説得してから進もう」とすると、いちばん動かない相手に、一日のいちばん長い時間を使うことになります。
私は、変数と定数という言い方をします。定数のところにいくら力を注いでも、答えは動きません。だったら、変わる可能性のある変数のほうに、ちょいちょい語りかける。時間はそっちに使ったほうがいい。推進担当の時間配分も、同じだと思っています。
これは切り捨てる話ではありません。私は、変えようとするのはやめました。でも、言うのはやめていません。高圧的に言うのではなく、「こうじゃないですかね」「こうだよね」と、少し寄り添う形で言い続ける。それしかないな、と思って活動しています。
判断の目安として、私は自分の時間が作業になっていないかを見ます。私たちは働きすぎです。もっと正確に言うと、作業をしすぎています。昨日と同じ今日を繰り返しているなら、それは仕事ではなくて作業です。同じ相手に、同じ資料で、また説明に行こうとしているなら、それはもう調整ではなく作業に近いと思います。相手を変えるか、見せるものを変えるか、順番を変えるか。どれかを変えてから行ったほうがいいです。
「誰を説得するか」を決めるより、「誰の説得に時間を使わないか」を決めるほうが、一日の形は変わります。説得したい相手はいくらでも増やせますが、一日の時間は増えないからです。
05それでも足りないなら、席の問題かもしれない
順番を変えて、時間の使い先も決めた。それでも設計や実行に手がつかない。その場合は、あなたの進め方ではなく、あなたに渡されている席のほうを見てください。決めていい範囲が渡されていない、システムの運用を抱えたまま推進を任されている、といった形です。この話はDXの推進担当がいない会社は、何から決めればいいのかに整理しました。決めていい範囲の線の引き方は社長が現場から抜けられない会社の、権限移譲の実務手順にあります。
人を増やす話も、簡単ではありません。先ほどの又聞きの話でいえば、大手のコンサルティング会社は調整役を採用で補っているそうです。でも中小企業は、そもそも人を採用するのが難しい。
three.TのNo.3代行は、社長(No.1)、幹部(No.2)に次ぐ3番目の推進役として、外から社内に入る仕事です。私は今、11社でこの立場に入っています。やっているのは、外側からコンサルのようにアドバイスをすることではありません。自分も関わって、膝を突き合わせて、できるだけ中の人と話しながらチームを作り、コミュニケーションを取る。この記事に書いた「味方を増やす」時間を、経営者や推進担当の代わりに持つ、という言い方が近いと思います。
スタンスとしては、気づいてない部分をあぶり出して、その部分を「私にやらせてください」と言う形です。支援はTALK(60分の無料相談)、DESIGN(何から手をつけるかを決める)、MOVE(一緒に実行する)、SYSTEMIZE(社内で回る形にする)の順で進みます。最後のSYSTEMIZEでは、決めた基準と、そう決めた理由を残します。社内の方が同じ順番で動けるようになれば、私が入っている意味は薄くなっていきます。
そもそも何から手をつけるかで迷っている場合は中小企業のAI活用・DXの始め方、決めたことを実行まで運ぶ会議の作り方は経営計画が「絵に描いた餅」で終わる会社と、終わらない会社にまとめています。会社そのものが止まる形については中小企業が止まる4つの共通パターンに書きました。
決めてから、説得しない。
three.TのNo.3代行は、社長と現場のあいだに入り、決める前に味方を増やすところから動きます。推進の担当を任されたものの、調整で一日が終わってしまう。何を先にやるべきかが分からない。そういう段階でも構いません。まずは60分、いま止まっていることをお聞かせください。初回相談は無料です。
06よくある質問
業務時間の大半が社内調整に消えるのは、DX推進担当として普通のことですか?
普通です。推進役の仕事は、何をどの順番で変えるかを決めて、決まったことが実行されるまで社内を動かすことなので、人に話を通す時間はそのまま仕事の中身になります。設計書を書いた時間だけを仕事として数えると、一日のほとんどが無駄に見えてしまいます。ただし、調整を続けているのに前に進んだ手応えがまったくないなら、量ではなく順番を疑ってください。決めたものを持って説明に回る形になっていると、1回の会議が次の説明を生むので、調整は減りません。
「根回し」に時間を使うのは、遠回りではないのですか?
遠回りには見えますが、結果としては近道になります。やっているのは裏で話をつけることではなく、先に意見の同調を集めて、方向性をそろえておくことです。私は言葉を変えたほうがいいと思っていて、「味方を増やす」「方向性合わせ」「ベクトル合わせ」と呼んでいます。会議の前に「こういうふうに進めたいので、こういうのが来た時に助けてもらえますか」と聞いておくだけで、当日に自分ひとりで全部に答えなくて済みます。
巻き込む相手は、どう選べばいいですか?
決裁権を持っている人からではなく、実際に使う現場のチームと、そのリーダーから入ってください。私は必ずリーダーにヒアリングの時間をもらいます。どういうチームで、どこを目指していて、今どんな課題があって、みんなが何に必要性を感じているか。ここで出てきた言葉が、そのまま導入の理由になります。巻き込んだ人が「自分が導入を後押しした」と言い出したら、うまくいっている合図です。
現場が反対しています。全員の合意を取ってから進めるべきですか?
全員の合意を待つと、いちばん動かない人に一日のいちばん長い時間を使うことになります。私は変数と定数という言い方をしていて、定数のところにいくら力を注いでも答えは動きません。変わる可能性のあるほうに時間を使ってください。ただし、反対している人との関係を切る必要はありません。高圧的にではなく「こうじゃないですかね」と寄り添う形で言い続けておくことはできます。
提案は、完成度を上げてから見せたほうが通りやすいのではないですか?
逆のことが多いです。たとえ30点でも50点でもいいから一回形にすると、そこから会話が動き出します。形がないと相手の中でも漠然としたままで、「さらにこうしたい」すら出てきません。「一応こんなの作ってみたんですけど、色、ちょっと違いますか」と聞くと、「そうそう、こんな感じ」と反応が返ってきて、そこから「さらにこうしたい」が出てきます。ただし、見せて渡して終わりにせず、見せたあとに何を聞くかまでをこの進め方の中身だと考えてください。
順番を変えても、設計と実行の時間が出てきません。どうすればいいですか?
その場合、原因は進め方ではなく、あなたに渡されている役割の輪郭のほうにあります。どこまで自分で決めてよいかが決まっていない、あるいはシステムの運用を抱えたまま推進も任されている、といった状態です。この見分け方と直し方は「DXの推進担当がいない会社は、何から決めればいいのか」に書きました。社内で整えられないときに、外から推進役を入れる方法もあります。three.TのNo.3代行はその形です。