COLUMN — DX PROMOTION

DXの推進担当がいない会社は、何から決めればいいのか足りないのは人手ではなく、決めて社内を動かす席

著者:上津原 研介(three.T合同会社 代表)

「DXを進めたい。でも、誰がやるかが決まらない」。中小企業でよく起きている状態です。総務や経理の担当者が兼任で見ている、社内で比較的詳しい1人が通常業務の合間に対応している、社長自身が調べている。パーソルイノベーションのlotsful Companyが2025年10月に発表した調査(全国の20〜40代の会社員660人が対象)では、専任担当がいないポジションのうち、具体的な職種として最も多かったのが「営業」(14.8%)で、「情報システム」と「UI/UX・デザイン」が12.5%で続いています(「専任不在のポジションはない」20.4%、「分からない」19.0%を除く)。ただ、この記事で書きたいのは人手が足りないという話ではありません。システムの運用を担う情シスと、何をどの順で変えるかを決めて社内を動かす推進役は、別の仕事です。この2つを1人に重ねている限り、担当者名を決めても進みません。ここでは、2つの違いと、推進役の席を埋める順序を整理します。

1人に重ねる 運用と推進を、同じ人が持つ 運用:止まると今日困る → 必ず先に処理される 推進:止まっても今日は困らない → 後回しになる 担当は決まったのに、進まない 席を分ける 運用と推進を、別の席にする いま誰がやっているか書き出す 運用と推進を切り分ける 決めていい範囲を渡す 月2回、進捗を見る場に載せる 決めたことが、実行まで進む
図1:運用と推進を1人に重ねた場合と、席を分けた場合の違い。

01「DXが進まない」の正体は、担当がいないことではない

DXの推進役とは、何をどの順番でデジタル化するかを決め、部署間の優先順位を調整し、決めたことが実行されるまで追いかける役割を指します。ツールを選ぶ作業や、設定・保守そのものではありません。決めることと、社内を動かすことが中身です。

会議で「DXを進めよう」と決まったのに、次の会議までに何も動いていない。理由を聞くと、担当者は通常業務で手一杯だったと言います。ここで出てくる打ち手が「ITに詳しい人を採用しよう」「情シスを置こう」です。ところが、採用できても止まり方が変わらないことがあります。採ったのが運用のできる人で、何から変えるかを決める権限は渡されていないからです。

担当者名は決まっている。人も増やした。それでも進まない。この状態のとき、空いているのは手ではなく決める席です。

02情シスと推進役は、別の仕事である

同じ「IT担当」という言葉で呼ばれていても、情シス(運用)と推進役(意思決定と社内調整)は、扱うものも、求められる力も違います。並べると差がはっきりします。

観点情シス(運用)推進役(意思決定と社内調整)
扱うものすでに動いている仕組みまだ決まっていない方針
主な相手システムとベンダー経営者と各部署
求められる力正確さと、止めないこと優先順位づけと、社内の調整
止まる原因手が足りない決める人がいない
外部への出しやすさ出しやすい社内の関係が要るため出しにくい

違い1:扱っているのが「動いている仕組み」か「まだ決まっていない方針」か

情シスの仕事は、すでに動いているものを止めないことです。対象がはっきりしていて、何が正解かも比較的はっきりしています。推進役の仕事は、まだ決まっていないことを決めることです。対象そのものを作るところから始まるため、作業量では測れません。

違い2:評価されるのが「止めないこと」か「進めること」か

運用は、何も起きなかった日が良い日です。推進は、何かが変わった日が良い日です。評価の向きが逆になっています。同じ人に両方を担当させると、本人の中で基準が二重になり、判断のたびに迷いが出ます。

違い3:兼任したとき、先に潰れるのは推進のほう

これが実務上いちばん大きい違いです。運用が止まると、その日のうちに誰かが困ります。サーバが落ちた、メールが届かない、請求書が出せない。だから必ず先に処理されます。一方、推進が止まっても、今日は誰も困りません。困るのは半年後です。

結果として、兼任している人の時間は運用に吸われ続けます。本人の能力や意欲の問題ではなく、緊急なものと緊急でないものを同じ人に持たせた時点でそうなります。DXは、緊急ではないが重要な仕事の代表格です。

兼任が悪いのではありません。緊急な仕事と緊急でない仕事を、同じ人の同じ時間に置いていることが原因です。分けるべきは人ではなく、時間と、決めていい範囲です。

03従業員10名以下の会社は兼務で耐え、大企業は外部を使っている

パーソルイノベーションのlotsful Companyが実施した「専任不在ポジションにおける副業活用実態調査」では、専任担当が不在のときにどう対応しているかも聞いています。全体では「社員の兼務を継続」が30.3%で最も多く、「特に対策できていない」が11.8%でした。注目したいのは、企業規模で対応が分かれている点です。

従業員10名以下では「社員の兼務を継続」が83.3%。これに対し、1,001名以上では「外部コンサル/業務委託を活用」が35.4%で最多でした。大きい会社は外から人を入れて席を埋め、小さい会社は社内の兼務で耐えている。同じ空席に対して、規模で打ち手が分かれています。ただし規模別の回答者数は公表されていないため、10名以下の83.3%は母数が小さい可能性があります。細かい数字ではなく傾向として読んでください。

同じ調査で、副業・兼業人材を活用している回答者の82.7%が「成果を実感した」と回答しています。実感した成果として挙がった上位は「業務推進のスピードアップ」38.5%、「停滞していた重要業務の進展」32.2%、「業務の可視化・仕組み化」31.0%でした。ここで挙がっているのは、作業量が減ったことではありません。止まっていたものが動いたことです。(出典: パーソルイノベーション lotsful Company「専任不在ポジションにおける副業活用実態調査」2025年10月29日発表。調査期間は2025年9月2日〜8日、全国の企業に勤める20〜40代の会社員660人へのインターネット調査。この記事で挙げた割合はいずれも、企業への調査ではなく回答者ベースの数値です。)

推進役の空席は、コストの問題としてではなくスピードの問題として現れます。人件費の計算では見えにくく、半年後に「まだ何も変わっていない」という形で表面化します。

04推進役の席を埋める4ステップ

ここからが実際の進め方です。人を増やす前にできることが4つあります。増やす判断は、その後です。

STEP 1誰がやっているか書く
STEP 2運用と推進を分ける
STEP 3決める範囲を渡す
STEP 4見る場に載せる
図2:推進役の席を埋める4ステップ。人を増やす判断は、この4つを終えた後で行う。
STEP 1

いま誰がやっているかを、名前で書き出す

「DX担当」という枠ではなく、実際に発生している作業を10個ほど挙げて、それぞれに現在の担当者名を書きます。PCの購入、業務システムの問い合わせ対応、新しいツールの選定、現場への説明。書き出すと、たいてい1人か2人に集中していることと、名前が入らない行があることが分かります。名前が入らない行が、空席そのものです。

STEP 2

その一覧を、運用と推進の2つに仕分ける

止まると今日困るものが運用、止まっても今日は困らないものが推進です。判断に迷ったら「これを1週間放置したら、誰かが困るか」で分けてください。仕分けたうえで、推進のほうだけを別の人に移します。ここで運用のほうを外部に出すと、負担は減りますが決める人がいない状態は変わらないため、DXは止まったままになります。

STEP 3

推進役に、決めていい範囲を渡す

金額と対象範囲で線を引きます。たとえば「月額3万円まで、1部署で完結するものは推進役の判断で決めてよい。それを超えるものは経営会議に上げる」といった形です。この線が無いと、推進役は毎回社長に確認することになり、社長の予定が空くまで全部止まります。渡す範囲の決め方は、社長が現場から抜けられない会社の、権限移譲の実務手順で詳しく扱っています。

STEP 4

進捗を見る場を、月2回に固定する

推進は止まっても今日は誰も困らないため、見る場が無いと自然に止まります。新しい会議を作る必要はありません。既存の経営会議の冒頭に、前回決めたことがどこまで進んだかを置くだけで足ります。会議の設計そのものは、経営計画が「絵に描いた餅」で終わる会社と、終わらない会社で扱っています。

この4つを進めたうえで、まだ手が足りないと分かった場合に、はじめて増員や外部活用の判断に進みます。順番が逆になると、増やした人がまた運用に吸われます。

05社内に置けないときの順序

順序としては、社内に置けるならそのほうがうまくいきます。社内の人は業務も人間関係も既に分かっているので、調整にかかる時間が短くて済みますし、決めた基準もそのまま残ります。まず社内を見て、置ける人がいないと分かってから外部を考えてください。

推進役に向いているのは、社内の業務をよく知っていて、各部署に話を通せる人です。ところがそういう人は、たいてい今いちばん忙しい人でもあります。渡す先が社内に見つからない、という状態はよく起こります。

その場合、外部の人間が一時的に推進役の席に入る方法があります。three.TのNo.3代行は、社長(No.1)、幹部(No.2)に次ぐ3番目の推進役として社内に入る形です。ツールの運用を引き受けるのではなく、何から変えるかを一緒に決め、各部署と調整し、決まったことが実行されるまで追う部分を担当します。目的は、経営者が「緊急ではないが重要なこと」に取り組める状態をつくり、会社が進むスピードを上げることです。

支援はTALK(60分の無料相談)、DESIGN(何から手をつけるかを決める)、MOVE(一緒に実行する)、SYSTEMIZE(社内で回る形にする)の順で進みます。外部が席に座り続けることが目的ではないため、決めた基準と判断の理由を残し、社内の担当者が入れる状態にしてから引き渡します。

何から着手するかの全体像は、中小企業のAI活用・DXの始め方にまとめています。推進役を社内で育てるか外部に頼むかの整理は中小企業の「経営参謀」の見つけ方、進めた業務が特定の人に貼りついたままになる場合は業務の属人化は、マニュアルを作っても解消しないで扱っています。

担当を決める前に、席を分ける。

three.TのNo.3代行は、DX担当者を採用するところからではなく、いま誰が何を持っているかを書き出して、運用と推進を切り分けるところから入ります。しばらくは私たちが推進役の席に入り、決める材料を揃えて社内を動かします。社内で回る形になったら引き渡します。まずは60分、いま止まっていることをお聞かせください。初回相談は無料です。

06よくある質問

DXの推進担当は、情シスに任せてはいけないのですか?

任せること自体は問題ありませんが、運用の仕事を持ったままだと推進は進みません。運用は止まるとその日のうちに誰かが困るため、必ず先に処理されます。推進は止まっても今日は誰も困らないので後回しになります。同じ人に両方を持たせる場合は、推進に使う時間を先にカレンダーで固定してください。時間が余ったらやる、という形にすると必ず運用に吸われます。

社内にITに詳しい人がいません。誰を推進役にすべきですか?

ITに詳しい人である必要はありません。推進役に必要なのは、どの業務から変えるかを決められること、各部署に話を通せること、決まったことを追いかけられることの3つです。ツールの比較や設定はベンダーや外部に任せられますが、優先順位を決めて社内を動かす部分は代わりにやってもらえません。社内の業務をよく知っている人のほうが向いています。

ひとり情シスの負担を減らすには、まず何をすればいいですか?

その人がいま抱えている仕事を、運用と推進の2つに書き出して分けてください。分けたうえで、推進のほうを別の人か外部に移します。運用だけを外部に出すと、負担は減っても決める人がいない状態は変わらないため、DXは止まったままになります。どちらを外に出すかで結果が変わります。

外部に頼むと、社内にノウハウが残らないのではないですか?

外部が持ち続ける前提で頼むと残りません。最初に、いつ社内に戻すかと、戻すときに何が残っている状態にするかを決めてください。決めた基準や判断の理由が文書として残っていれば、担当が変わっても運用できます。three.TのNo.3代行では、この工程をSYSTEMIZEとして支援の最後に置いています。

推進役を決めたのに、結局すべて社長が決めています。どうすればいいですか?

決めていい範囲が渡されていない状態です。推進役という名前だけがあって、判断は社長に上がる形になっています。範囲と金額の両方で線を引いてください。たとえば「1つの部署で完結し、既存の予算内で収まるものは推進役が決めてよい」というところまで具体的にします。線が引かれていないと、推進役の仕事は確認を取ることそのものになります。決裁の順番待ちが積み上がり、進み方は以前と変わりません。

推進役は兼任ではダメですか?

兼任でも進められますが、条件があります。推進に使う時間が先に確保されていること、決めていい範囲が本人に渡されていること、進捗を見る場が定期的にあることの3つです。この3つがないまま兼任にすると、担当者名だけが決まって中身が動かない状態になります。逆に3つが揃っていれば、専任でなくても進みます。

何人規模の会社から、推進役を置くべきですか?

人数よりも、部署をまたぐ変更が出てきたかどうかで判断してください。1つの部署の中で完結する改善なら、その部署の責任者が決められます。受注から請求までのように複数部署にまたがる業務を変える段階になると、部署間の優先順位を調整する人が必要になります。この段階で推進役が空席だと、各部署がそれぞれの都合で止めてしまいます。

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