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「任せたいけれど、任せられる人がいない」。中小企業の社長からよく聞く言葉です。ただ、話を細かく聞いていくと、任せる相手がいないというより、任せるための手順が決まっていないことのほうが多くあります。何を渡すか、どこまで決めていいか、渡した後に社長は何をしないか。この3つが決まっていない状態で「任せた」と言っても、結局は全部の判断が社長に戻ってきます。three.Tは10社でNo.3(社長・幹部に次ぐ3番目の推進役)として社内に入っていますが、権限移譲が進んだ会社は、覚悟を決めたのではなく順番を変えていました。この記事では、その順番を実務手順として整理します。
01「自分が抜けると回らない」を、まず確かめる
移譲の話に入る前に、確かめておいたほうがいいことがあります。自分が抜けると回らない、という前提が本当かどうかです。
代表のウエツは前職の大手メーカーを離れるとき、有給が40日以上残っていました。全部消化するのは申し訳ないと思い、1週間だけ取って家族と旅行に行くことにしました。「1週間いなかったらまずいな」と心配していたのですが、先輩も後輩も気にせず行ってきてくださいと言う。戻ってきたら、何の問題も起きていませんでした。抱えていた案件も、誰かがカバーしてくれていた。
このとき感じたのは、悲しさよりも、楽になった感覚のほうでした。自分を必要以上に大きく見ていた部分が落ちた。責任感が強い人ほど、この事実と向き合うのに時間がかかります。ただ、一度確かめてしまうと、渡すことへの抵抗はかなり下がります。
確かめ方は、3日空けてみること
いきなり1週間は難しくても、3日なら試せます。連続した3営業日、現場の判断に入らない期間を作ってみてください。何も決めない、確認の連絡にも返さない。この3日で何が止まったかが、そのまま移譲すべき業務の一覧になります。
止まったものは、判断が社長にしかできない業務です。止まらなかったものは、すでに実質的に他の人が回している業務で、社長が確認しているだけの可能性があります。後者は、移譲ではなく確認をやめるだけで済みます。ここを分けないまま「全部を任せる」と考えると、やることが多すぎて始まりません。
02権限移譲が止まる3つの理由
three.Tが関わってきた中で、移譲が途中で止まったケースには、次の3つのどれかがありました。
1. 判断の基準が、社長の頭の中にしかない
「この案件は受ける、これは断る」の線は、多くの社長が持っています。ただ、それが言葉になっていない。基準が言葉になっていないと、任された側は毎回聞きに来るしかありません。社長からすると「いちいち聞いてくる」ように見えますが、聞かないと外すのだから当然です。
移譲でまず必要なのは、人を育てることではなく、基準を書き出すことです。金額はいくらまでか、どういう条件なら断るか、例外を認めるのはどんなときか。3つか4つ書き出すだけで、聞きに来る回数は目に見えて減ります。
2. 渡した後に、取り戻してしまう
渡したはずの判断を、途中で社長が引き取ってしまうことがあります。悪気があるわけではなく、進みが遅いのを見て手が出るのです。ただ、一度取り戻すと、任された側は次から自分で決めなくなります。「どうせ最後は社長が決める」と分かれば、決める練習をする理由がありません。
ここには、渡す側の心理も関わります。パーキンソンの法則という言い方があります。仕事は期日まで伸びる、というものです。なぜ伸びるかというと、自分の仕事がなくなるのが不安だからです。この課題を早く片づけたら、次は自分の居場所がなくなるかもしれない。だから無意識に少し緩めにやる。ウエツ自身も会社員を15年やっていて、半日で終わる作業を「一日仕事です」と言ったことはあったと振り返っています。悪気はなく、自分の椅子を守りたい気持ちが働くだけです。
社長にも同じことが起きます。現場を手放すと自分の役割がなくなる気がするから、無意識に手を出す。ここを自覚しておくと、手が出そうになったときに止まれます。
3. 渡す相手の力を、低く見積もっている
「この人には無理だろう」と判断して、渡すのをやめる。これが最も静かに止まる型です。
ウエツは自分が運営しているコミュニティで、これを体験しています。忘年会を企画して告知したところ、反応は3件ほど。日程調整のページを作っても、2週間誰も入力しない。もうやらないという気持ちで開いた画面に、全員分の予定が入っていました。しかも用意した10ほどの候補日に対して、多くの人が複数の日程を書き込み、それぞれのコメントまで添えてくれていた。
そのとき気づいたのは、メンバーが動かなかったのではなく、こちらが動かないと決めつけていたということでした。動かないと決めつけると、その人に機会を与えなくなります。機会がなければ、本当に動けない人になっていきます。移譲が止まる理由の中で、これが一番もったいない型です。
03何から渡すか:業務の並べ方
全部をいっぺんに渡すことはできません。順番をつけます。並べる軸は2つです。
発生頻度(毎日・毎週起きるか、年に数回か)と、判断の重さ(間違えたときの影響が大きいか小さいか)。
最初に渡すのは、頻度が高く、判断が軽いものです。頻度が高いので練習の回数が稼げ、判断が軽いので失敗しても取り返せます。日々の発注、シフトの調整、定例の連絡、決まった金額以下の支払い承認あたりが該当します。
次が、頻度が高く、判断が重いもの。見積の決裁、取引条件の変更などです。ここは金額の上限を切って渡します。「50万円までは決めていい、それ以上は相談」という形なら、判断の練習をしながら大きな失敗は防げます。
頻度が低く、判断が重いものは、最後まで社長が持って構いません。設備投資、人の採用、取引先の切り替え。年に数回しか起きない判断は、渡しても練習になりません。移譲の目的は全部を手放すことではなく、社長の時間を空けることです。年数回の判断は、時間をあまり奪っていません。
頻度が低く、判断も軽いものは、移譲ではなくやめられないかを先に考えてください。誰かに渡す前に、その業務自体が必要かを確認する余地があります。
04渡す手順:5つのステップ
順番が決まったら、1つ目の業務で次の手順を試します。1つ目がうまくいってから2つ目に進むほうが、結果的に速くなります。
判断の基準を、3〜4行で書き出す
その業務で社長が何を見て決めているかを書きます。文章でなくて構いません。「金額は30万円まで」「納期が2週間を切る依頼は受けない」「既存客の追加注文は無条件で受ける」。この程度で足ります。完璧を目指すと書き終わらないので、まず3〜4行だけ書いてください。抜けは運用しながら足します。
決めていい範囲を、数字で伝える
「だいたい任せる」では渡ったことになりません。金額、期間、件数のどれかで線を引きます。線があると、任された側はその内側で迷わず決められます。線の外は相談する、というルールも同時に決めます。
連絡の経路から、社長を外す
ここを飛ばすと移譲は完成しません。関係する取引先や社内のやり取りで、社長が宛先やCCに入ったままだと、結局すべての情報が社長に届き、見れば口を出したくなります。担当を変えたことを相手にも伝え、経路そのものを付け替えてください。社内向けにも、この件はこの人が決める、と明示的に共有します。
週1回15分の報告だけ残し、それ以外は口を出さない
完全に見ないのは不安なので、報告の場を1つだけ残します。週1回、15分。決めたこと、迷ったこと、困っていることの3点だけ聞きます。この場以外では確認しません。この「それ以外は口を出さない」のほうが、報告を受けることより重要です。
報告で聞くのは結果ではなく、判断が基準からずれていないかです。ずれていたら、責めるのではなく基準の書き方を直します。基準が悪かったのか、基準は合っていたが伝わっていなかったのか。ここを分けて話すと、次から同じずれが起きません。
3か月後に、基準を書き換える権限も渡す
最後のステップです。判断の基準そのものを直す権限を渡します。ここまで来ると、社長は基準の変更を承認するだけになり、日々の判断からは完全に離れられます。ここを渡さないと、環境が変わるたびに基準の作り直しで社長に戻ってくることになります。
05渡す相手が社内にいないときの順序
ここまでの手順は、渡す相手がいる前提で書いています。ただ、社員10〜100名の規模では、渡せる人が見当たらないという状況が普通にあります。
権限だけを渡しても、人は変わらない
先に、渡し方について触れておきます。権限を渡せば人が育つかというと、それだけでは足りない場面があります。
立場を与えるだけでは、動き方は変わりません。肩書きが変わっても、判断の仕方は前のままということが起きます。変わるのは、その立場で向き合わざるを得ない状況が同時にできたときです。立場だけでも、環境だけでも足りません。渡すときは、権限と一緒に、その人が逃げずに向き合う状況もセットで作る必要があります。具体的には、社内外に「この件はこの人が決める」と伝えてしまうことです。STEP 3で経路を付け替えるのは、この効果も兼ねています。
社内で育つのが、実は多数派
2023年版の中小企業白書は、経営者に続くナンバー2の立場にあり、経営の悩み事を相談できる人材を「右腕人材」と定義しています。その経歴を見ると、内部で育成した右腕人材が約7割、外部から確保した右腕人材が約3割でした(出典: 2023年版中小企業白書 第2部第1章第3節)。この約7割・約3割は、右腕人材が「いた」と答えた企業の中での割合です。
つまり、右腕を持つ会社の多くは、その人を社内から育てています。「うちには任せられる人がいない」と感じていても、育成という経路自体は珍しいものではありません。時間はかかりますが、選べる道です。
それでも当面の受け皿が要るとき
とはいえ、育つのを待っている間も判断は毎日発生します。渡す相手が育つまでの期間、社長の時間が空かない状態が続くのは現実的ではありません。
three.TのNo.3代行は、この期間の受け皿として社内に入る形です。社長(No.1)、幹部(No.2)に次ぐ3番目の推進役として、判断の基準を一緒に言葉にし、社長が持っていた判断を一時的に引き受けます。そのうえで、社内の候補者が決まった段階で、作った基準ごと社内に戻します。外部が持ち続けることが目的ではありません。
支援はTALK(60分の無料相談)、DESIGN(何から手をつけるかを決める)、MOVE(一緒に実行する)、SYSTEMIZE(社内で回る形にする)の順で進みます。SYSTEMIZEは、まさに基準を社内に残す作業です。
社内で育てるか外部に頼むかの整理は、中小企業の「経営参謀」の見つけ方にまとめています。また、外部を入れたのに動かなかった場合に何が起きているかは、顧問・コンサルの成果が出ないとき、何が起きているのかで扱っています。
「任せられる人がいない」を、順番から立て直す。
three.TのNo.3代行は、社長が持っている判断を一緒に言葉にし、渡せる形に変えるところから入ります。基準の書き出し、決裁範囲の設定、連絡経路の付け替え、そして社内に戻すところまで。渡す相手が今いなくても始められます。まずは60分、いま社長の手から離れていない業務をお聞かせください。初回相談は無料です。
06よくある質問
任せられる社員がいません。何から始めればいいですか?
人を探す前に、業務を分けるところから始めてください。連続した3営業日、現場の判断に入らない期間を作ると、何が止まって何が止まらないかが分かります。止まらなかった業務は、すでに他の人が回していて社長は確認しているだけの可能性があり、確認をやめるだけで手が空きます。止まった業務のうち、頻度が高く判断が軽いものが、最初に渡す候補です。
任せると品質が落ちるのが不安です。
最初の数か月は、社長がやっていたときより質が落ちるのが普通です。判断の回数が足りていないので当然の結果です。落ち幅を小さくするには、金額や期間で線を引いて、失敗しても取り返せる範囲から渡してください。線の内側で何度か判断を経験すると、質は戻ります。質が落ちる期間を許容できないなら、その業務はまだ渡す段階ではないという判断もあります。
一度任せたのに、結局こちらに戻ってきてしまいます。
連絡の経路が付け替わっていない可能性が高いです。取引先や社内のやり取りで社長が宛先やCCに残っていると、情報が届き、見れば口を出したくなります。担当が変わったことを相手にも伝え、経路そのものを変えてください。あわせて、週1回15分の報告の場を作り、それ以外では確認しないと決めることをおすすめします。
どこまで権限を渡していいのか、線引きが分かりません。
金額、期間、件数のどれかで数字の線を引いてください。「30万円までは決めていい、それ以上は相談」のような形です。「だいたい任せる」では渡ったことになりません。最初は自分が不安に感じるより少し低い額から始め、3か月ごとに上げていくと調整しやすくなります。
権限を渡したのに、その人が変わりません。
権限だけでは足りていない可能性があります。役割を渡すと同時に、その人が判断せざるを得ない状況も作る必要があります。具体的には、社内外に「この件はこの人が決める」と伝えてしまうことです。社長に確認すれば済む経路が残っている限り、その経路が使われ続けます。
権限移譲は、どれくらいの期間で完了しますか?
業務ひとつあたりで見るのが現実的です。基準を書き出し、範囲を決め、経路を変え、3か月ほど運用して基準の書き換え権限まで渡す。これが1つの業務の流れになります。複数の業務を同時に進めると、どれも中途半端になりやすいため、1つ目が回ってから2つ目に着手する順番をおすすめします。会社全体で見れば年単位ですが、社長の時間は最初の1つ目から空き始めます。